私は幾度か書いてきたように作曲家でしかない。これは作曲を職業とするものの初歩的な自覚にすぎない。私は作曲家であって、発明家とは異なるのだから、特許などというものに書かずりあうことなしに生きられる。私が考えるようなことはかならず他の誰かが考えていることだろうし、それだから、私は作曲家であってよいのだろう。私は誰もがおよびもしない考えについて考えようとは思わない。ただ、だれもが考えるべき事柄を自分なりに確かめたいだけのことである。その意味から、私はそのことを自分の力だけによらずとも構わないと考えてる。
(武満徹著作集1、新潮社、2000年2月25日発行、48頁)
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